『介護殺人』-追い詰められた家族の告白 を読んでみた。

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先週のこと。よくショートステイをご利用くださるお客様のご家族からの連絡ノートの内容がたった一行だったので、ギクッとしました。お嫁さんがいつも特記欄いっぱいに認知症を患うお義父さんの様子を書いてくれるのですが、今回たった一行だったのです。

 

「ストレスが溜まりすぎているのかも…SOSかもしれない」と感じ、送迎の際いつも以上にお嫁さんの表情や服装、話し方を観察しました。結局お嫁さんのご様子はいつもと変わらなかったので、今回は忙しくて書けなかったのかな、という結論に至りました。

 

これが正論かどうかわかりませんが、私が仕事の際気にするのは「利用者の健康と生活」だけでなく「利用者家族の心身の状態」と「介護スタッフの心身の状態」です。利用者家族に関しては本来ケアマネージャーの範ちゅうかもしれませんが、月一回の訪問でそれを読み取り切れないこともあると思うので、関係事業所がみんなで気にかけるべきだと思っています。ちょっとしたSOSを汲み取ることができれば、それで救われる方はたくさんいるはずです。ちなみにスタッフが明るく健全でないと、ケアされるお客さんに元気を与えることはできないので、スタッフの心身の状況も気にします。

 

本題ですが『介護殺人』は2015年12月~2016年6月まで毎日新聞(大阪本社発行版)でシリーズ展開された「家族介護」を加筆・修正し書きおろしを含めて収録したものです。

内容は、介護に追い詰められて実際に家族を殺めてしまった加害者に、その時の話を聞く、というもの。いくつもの事例が取り上げられていますが、この業界の人だったら似たような事例が浮かぶほど、物凄く生々しいです。

なお、この本では裁判記録や取材記録をもとに、介護疲れが背景に認められる事例であること前提に収録されています。つまり金銭のトラブルやネグレクト(介護放棄)のような加害者に過失がある事例は取り上げていません。

 

大切な家族を殺めてしまった背景にある「介護疲れ」は本当に恐ろしいもので、介護に慣れれば免れるものでもありません。ある日悪魔がやってきて、殺人とは無縁だった穏やかな生活に終止符が打たれてしまうのです。

 

老老介護の夫婦、未婚の子と二人暮らしや夫婦と子の3人暮らし、先天性の障害をおった子が成長し年老いた親が介護を続ける老障介護…加害者は当時精神的に問題を抱えていることが殆どですが、相談する相手さえいれば違う結末があったのでは?という単純な問題ではないことがわかりました。

相談しても制度が整っていないから行政もどうすることも出来ない。介護の制度が難しくて理解しがい。ケアマネや現場の業務量過多で対応しきれない。金銭的にどうすることもできない、施設が足りない…現実の問題点は想像よりずっと多くて複雑であることがわかります。

 

 

昨日4月20日の静岡新聞朝刊一面に〝高齢世帯30%超が独居“と書かれていました。

2040年の高齢者数はピークという3900万人超が予測されています。総世帯数は全国的に減る一方(5333万世帯→5076世帯)、そのうちの2242万世帯が高齢者世帯となるそうです。約半数!で、その高齢者世帯のうち30%以上が独居になるよ、というわけです。

世帯を家族構成で見ると、「夫婦と子」「夫婦」が一番多く、私自身仕事をしていてよく見かける家族構成でもあります。未婚が増えているのも理由の一つですね。

 

 

こういった実際に起きた事件とこれから来る時代予測から、今からどうやって環境を整えておくべきか早急に考えなければいけません。国が在宅復帰や自宅での見取りを推奨している以上、在宅介護は必須となり家族の負担は大きくなります。最近は入院してもどんどん退院させられますよね。この時代の流れの中、自分は地域社会のために何ができるだろうか?

 

『介護殺人』を読んで気付いたこと。

 

1. 1人の介護に4人の助けが必要。それを誰にも頼らず自分で背負い込むと、やりきれなくなる。やりきれないから自分の何かをそぎ落としてでもやろうとする。睡眠、貯蓄、社会交流、自由な時間…いままで当たり前に持っていたものが少しずつ減っていく。限界まで来た時介護者は自分の命までそぎ落とすことになってしまう。
 

2. 介護が長期に渡ると、介護者も慣れてくるのではないかと思うのは間違い。介護者も年を取るし、被介護者も症状が進行していく。少しずつ疲弊していくと介護者本人がそれに気づかない可能性があり、そこが恐ろしい。
 

3.「遠慮しないでなんでも相談してね」「大丈夫?」と声をかけても介護者の性格で人に迷惑はかけたくない、とか人にこんな姿見せたくない、とプライドがあってSOSを出せない介護者がたくさんいる。どうやってその苦悩を汲み取るか。

 

 

家族の介護は一生懸命になりすぎないほうがいいのですが、なかなかそんな失礼なことは言えません。せめて介護者の心の支えになりたいし、身の回りにそういう人が増えていけばいいなと思います。